宗教と倫理の間(15)番外10

○○寺支部 獅子風蓮

クロウ事件

前回までは、いわゆる「墓地問題」について、自分の目で確かめた事実から事の真相を説き明かそうとしてきたわけですが、創価学会がこの「墓地問題」とともに日顕上人猊下を攻撃する際に材料として使っているものに、学会で言うところの「シアトル事件」があります。

宗門側では、「シアトル事件」なるものはそもそも存在せず、日顕上人を誹謗するための謀略であるとし、その意味でこの問題を「クロウ事件」と呼んでいます。

わたしが一番最初に、聖教新聞でこの事件に関する記事を読んだのは、平成4年6月22日です。

昭和38年の第一回海外出張御授戒において日顕上人猊下(当時教学部長)がアメリカ・シアトルにおいて破廉恥事件を起こしたというものでした。

わたしは講読していませんが、「創価新報」(6月17日号)が、それより早く、キャンペーンの口火を切ったようです。

最初、「現場に立ち合った」とされる婦人部員の名前は伏せられていましたが、平成4年7月23日付けの聖教新聞には、その婦人部員が、ヒロエ・クロウという実名で証言をしたという記事が載りました。

これまでのいきさつから考えて、創価学会や聖教新聞の主張を全面的に受け入れることはとうていできません。

わたしははじめから、このようなキャンペーンの張り方は、うさん臭いと思っていました。

おそらく、誰かの手によって書かれたシナリオがあるに違いありません。それにしたがって、アメリカの婦人部員も巻き込んで、念入りに口裏を合わせ、巧妙に仕組まれた謀略なのではないかと思われました。

しかし、「火の無いところに煙は立たない」とも言います。

聖教新聞の記事に毎日目を通しているうちに、

「学会の言うことの全てが正しいとは思わないが、その中の一部は本当のことも含まれているかもしれない」

日顕上人猊下様には誠に申し訳ないのですが、「模範的な信徒」ではない私は、ついいろんな可能性を想像してしまうのでした。ただ、30年近くも昔の、しかも外国での出来事でもあり、一介の信徒にすぎないわたしには判断の材料がほとんどありません。

ただ、わたしとしては、たとえ創価学会の主張に一部事実が含まれていたとしても、全体的には創価学会の謀略という線は崩れないと思っていました。

しかし、この「クロウ事件」は、創価学会員とりわけ学会婦人部に対する影響は少なくなかったようです。

学会婦人部は、良くも悪くも、学会を支える基盤でありますが、学会の言うことを何でも信じ込み、疑うことをしないということで有名です。特に「女性問題スキャンダル」とくれば、「潔癖な」婦人部、女子部は激しい嫌悪感を持つことが予想されます。

それに対して、壮年部あたりになると、いくらか世間の常識や社会の仕組みが分かってきますから、問題の本質をうすうす感づいている人も少なくないのではないかと思います。実際、何人かの男性学会員に聞いてみたところ、ほとんどの人はこの問題に関する学会の作為を見抜いていました。

さて、宗門側は、この「クロウ事件」に対して、「大白法」(平成4年7月16日号)に「時局協議会有志」により反論(以下「時局文書」と呼びます)を掲載し、さらに「大白法号外」(平成4年9月2日)に再度反論を展開しました。

事実関係にこだわる私が特に注目したのは、「事件」当時の法律事情です。

「時局文書」が「売春の罪を(売春婦)本人がわざわざ(警察官に)自白したようなもので話すはずがない」と指摘した点について、「地湧」(第17巻146ページ)では次のように反論しました。

「日顕が買春した1963年当時のシアトルが属するワシントン州では、売春をさせる目的で婦女子を売買したり、婦女子を使って売春させ金を吸い上げる娼家の経営者などの管理売春をしている者を罰する法律はあったが、売春婦および買春した男性を罰する法律はなかった。したがって、売春婦が罪を問われることはなかったのだ。

そうすると、日顕が買春をした1963年のシアトルにおいて、金銭的代価を得ることを目的として日顕と性交したことを売春婦が警察官に自供したことは、まったく不自然なことではない」

これに対し「大白法号外」では、サンフランシスコ・妙信寺住職の高橋慈豊御尊師が、次のように述べています。

「アメリカ合衆国は一部の例外を除いて、全ての州が売春禁止法を施行しております。確かに1963年当時、ワシントン州においては未だこの法律はありませんでしたが、しかし1944年制定のシアトル市の条例、第73095号において、売春行為は犯罪とされ90日以下の懲役、300ドル以下の罰金と、定められております」

「地湧」の主張が、はっきりした証拠をもって崩されたわけです。

この点に関する創価学会側の反論は現在までの所、ないようです。

それどころか今度は、クロウ婦人にいわゆる「62億円訴訟」を起こさせました。

「あくまで個人が起こしたもの」という保険はかけていますが、実質的には創価学会が陰であやつって、クロウ婦人に訴訟を起こさせたのは明白です。

「クロウ婦人をウソつき呼ばわりするのは名誉毀損に値する」というわけですが、賠償金の額が5000万ドル、日本円にして約62億というのですから、いささか常識を超えた印象を与えました。

わたしの母は、以前も書きましたが、かなり重症の「池田教信者」です。このあいだ、この母と話をする機会がありました。昨年(平成3年)の11月頃だったと思います。

残念ながら、こちらの話す「正論」は聞いてもらえず、聖教新聞に書いてあることを鵜呑みにした「暴言」が母の口から出てきます。

「クロウ事件」に話が及ぶと、母は、

「まあ見ていなさい。来年になって判決が出ればはっきりするから」というのです。

ここにいたって、どうして創価学会がクロウ婦人に「62億円訴訟」という常識はずれの裁判を起こさせたか、その理由が見えてきました。

どんな無茶な裁判でも、裁判ともなれば、日顕上人猊下の召喚が行なわれる可能性もありますから、宗門にとっては大きな負担になるはずです。

しかしそれ以上に重要なのは、裁判の判決が出るまでの間、一般学会員の目をそらし時間稼ぎができるということなのではないでしょうか。

宗門から破門された現在、創価学会は、独自の新興宗教団体として出発をめざし着々と準備を進めていると噂されています。公式的には否定していますが、そのために超えなくてはいけない最大のハードルは、「独自の御本尊」をいかにして決定していくかということになるでしょう。

これまで、「塔婆・戒名不用論」「同志葬」「独自の勤行要典」と、着々と「独立」に対する手を打ってきた創価学会ですが、「独自の御本尊」となると、そう簡単に一般会員を納得させることはできません。

「独自の御本尊」を掲げて晴れて「独立」ということになっても一般の会員が創価学会から離れず付いていくようにするためには、これまで以上に巧妙に会員を「洗脳」する必要があります。そのためには時間が必要です。

一方、このような変化(謗法化)に付いていけない会員が、少なくとも宗門側に流れないように、日顕上人および宗門のイメージを徹底的に落としておく必要があります。

以上はあくまで推測ですが、こう考えると、「クロウ事件」における日顕上人猊下への攻撃の激しさも、クロウ婦人の起こした常識はずれの「62億円訴訟」も納得がいきます。

さて、前回までの「墓地問題」に関して原稿を書くにあたって、資料として怪文書「地湧」を読んでいるうちに、思いがけない発見をしました。それは、「クロウ事件」の謀略と関係のあることですが、残念ながら紙面がつきましたので、次回にまわさせていただきます。

 (つづく)